現場に出続ける。そして考え続けることの大切さ

前の記事 仕事と勉強の両立に疲れたとき 下

私が公認会計士になったばかりの頃です。

会計業界に入って最初に出会ったある方は、経験豊富、業界でもちょっと有名なくらいの大ベテランでした。平たく言えば「凄すぎて話が合わない」。こちらは全く業界のことがわからないヒヨッコ。

たまにその方とお話しする機会があるのですが、「会話にならない」。向こうの知識経験はとんでもなく豊富、こちらはド素人状態で、まともに話ができる状態ではありませんでした。

これ、説明が難しいのですが、専門家の世界では結構あります。

専門家の世界では、大ベテランは、相手がヒヨッコだろうがなんだろうが、専門家として扱います。わかりやすく説明するなどということはあまりしません。相手の力量に関係なく、自分の言葉で説明するのです。その結果、ヒヨッコは相手が何を言っているか、よくわからないことがあるのです。その結果会話にならない。

まあ大ベテランにしてみれば、早く俺の土俵に上がってこい!という感じだったのでしょう笑。おそらく。

私にとって、その方は社会人でほぼ初めて経験したとてつもなく「高い壁」。その方の大物感溢れる言動(悪い意味ではありません笑)もあいまって、とんでもなく遠い存在ととらえていました。とても追いつけないというか。

さて私は、その後、その大ベテランとはしばらく違う部門でキャリアを重ねました。その大ベテランは現場から離れ、「審査」部門で仕事をしていました。

私は新米ということもあり、当然ながらひたすら現場で、IPOやグローバル監査などをこなしていました。

1年目は正直まったく仕事の感覚がつかめず、監査が面白いとはどうしても思えず、辞めたくて仕方が無かったです。

しかし2年目以降、「修了考査(公認会計士試験合格後に再度受ける試験。合格して初めて「公認会計士」と名乗ることができる)」で改めて会計監査を勉強し直したということもあり、徐々に仕事がわかるようになりました。さらに英語という武器と社会人経験も手伝って、いろいろな国に行って監査をしたり、様々なIPO案件(成功・失敗例含む)に携わったりすることができるようになりました。

そして数年たち、久しぶりにあの大ベテランと一緒に仕事をすることになりました。

以前は「話にならない」感じでしたので笑、「ああ、またよくわからないことを言われるのだろうな…」と内心ビビっていたのですが、、

なんと「話になって」います!

彼の言っていることがわかるのです。

私も様々な経験を積み、成長したからこそ、大ベテランの話がわかるようになったのでしょう。めでたしめでたし。

…という単純な話ではありません。

その大ベテラン、最初に会ったときよりもむしろ後退しているように見えました。

「おや?あまり最近の事情をご存じない?」と感じることがかなり多くなってきたのです。場合によっては大ベテランが「間違っているんじゃないか?」と思うことも増えました。

考えてみれば、私が現場で四苦八苦していたこの数年、その大ベテランは「審査部門」にずっといたのです。

審査部門とは、いろいろな監査チームの監査状況を見て、きちんと手続きをやっているか、文字通り審査する部門であり、経験豊富な方しかできません。

独立性を保つ必要がありますので、監査チームと一緒に行動はできません。

すなわち、この数年「現場」に出ていなかったのです。つまりクライアント先に行ってお話ししたりしていない。

審査をするということは、出てきたモノに対してチェックをすること。もちろん経験と深い知識が必要な仕事です。

しかし自分でアクションを起こし、クライアントとやりとりするわけではありません。

この「自分でアクションを起こさない。解決策を考えない」という状態、良くないのではないかと思います。

会計士に特に多いですが、役職が上になればなるほど、「レビュー」が多くなってきます。

つまり部下が作成したドキュメント等がしっかり作られているか、レビューして、修正を求めるのです。

このレビュー、もちろん大事な仕事なのですが、こればかりやるのは良くないと思っています。

私は違う業界から入ったこともあり、この「レビュー」ばかりやっている上位者にどうしても違和感を覚えます。

一度驚いたことがありました。

監査法人の「相当偉い方」が退職することになり、パートナー(最上位役職)数名が部署の若手を集めて、その「相当偉い方」を見送る企画を考えるよう指示しました。

私もそのメンバーになりましたが、若手と「相当偉い方」とは何の接点もありません。むしろパートナーたちがより密接にかかわっていましたので、パートナーが企画を考えるかと思いきや、全く考えませんでした。

若手に「企画を出せ」と丸投げしたのです笑。

しかし我々に言われても、その相当偉い人がどんな人かもわからず、大した案が出せませんでした。

パートナーたちはそれらを見て、自分が考えるかと思いきや、なんと「レビュー」するだけだったのです。「あれはダメだ」「これがダメだ」と細かいことを言うばかりで、自分で率先してイベントを仕切ろう、という人は誰もいませんでした。

この人たち、本当にダメだなと思いました笑。

若手を教育しようとしたのかもしれませんが、とんだ見当違いです。こういうのはお世話になった自分たち(パートナー)が詳細も含めて企画すべきです。まったく接点のない人が企画しても人柄・エピソード等がわからないので企画のしようがありません。それでも頑張って企画しましたが笑。パートナーたちは最後まで何もせず、本当に驚きました。いまだに当時の同僚とネタにするくらいです。

組織の上位層はレビュー以外にも組織運営等、下には見えない苦労をしていることはわかります。

しかしそれとは別の話です。先ほどの大ベテランもそうですが、自分で現場に出て考えず、他人から上がってきた案を批評ばかりしていると、色々な面で能力は後退してしまうと思います。

組織の上位層だからこそ、積極的に現場に出て、問題点を把握するべきでしょう。オフィスの奥に閉じこもって、あがってきたものを批評しているばかりでは組織の問題点すら把握するのが困難となります。

上位になればなるほど、バックオフィスでやることが増えるのは仕方ありません。しかし私は若手に嫌がられても笑、今後も可能な限り現場に行って自分で考えたい、と思っています。

次の記事 資格試験「不合格」との付き合い方