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私は公認会計士に合格して11年目となりました。ベテラン方と比べればヒヨッコみたいなものです。
本来、公認会計士の未来予想などと大それたことをやる立場ではございません。
しかし私が少し他の方と違うのは(自分で言うな)、異なる業種を複数経験していること。とくに私がキャリアの最初に勤めた会社は本当に業種の総合デパートみたいなところで、そこでセミナー講師、社内SE、金融、コンサルといったかなり幅広い業種を経験することができました。
私は会計業界にとってある意味「異分子」のようなものです。その視点で業界の未来予想をしてみたいと思います。
まずは会計監査業界です。
いま、大手監査法人は非常に大きな変革の方向に舵を切ろうとしているように見えます。
端的に言えば「標準化、自動化」。米国のビッグファームと提携している監査法人は米国発のこの動きに歩調を合わせなければいけないでしょう。
私が在籍していた監査法人は、2020年の時点で10程度のシンプルで論点が少ないと想定される科目(現預金や借入金等)に関して、「監査調書」のフォーマット化を進めていました。
監査調書とは監査の過程を記録する非常に重要な文書のことですが、様式がフォーマット化されるということは、近い将来誰でも作れるようになるということです。おそらく、まずはアシスタントの仕事になるのではないでしょうか。アシスタントは基本的に資格を持っていませんので、早い話が誰でもできるようになるということです。TBから数字を入れ、目的・手続・アサーション等を選択して調書が簡単にできるイメージでしょう。
これまでそういった簡単な調書作成は新人の仕事で、これらを通して調書作成を覚えていくというのが伝統的なスタイルでした。しかし今後新人はそういった機会は無くなり、いきなり難しい論点を割り当てられるかもしれません。もしくはアシスタントがやる作業全般のレビュー(および作成サイン)でしょう。下手したらアシスタントの方が調書作成が上手、ということになるかもしれませんね。
さらに残高確認状関連、また監査に付随する標準化可能な業務(証憑チェック、有価証券報告書チェック等)は、現場の会計士の手から離れ、法人内に設立された「共通センター」のようなところで、徐々に実施されるようになっています。
これまではクライアントごとに組成される「監査チーム」でクライアントごとに行っていた作業を、そういった「共通センター」が一手に引き受けるようになっています。
これは最近各企業で導入されている、経理や法務をグループで統一する「シェアードサービス」と全く同じ流れです。要は社内(もしくは子会社間)に散らばっている同じような業務を標準化し、一つの部門で全部やってしまおうというものであり、当然ながら業務効率化とコスト削減を主眼としています。
では、そのような環境の変化を受け、現在、現場の会計士の手間が削減されているかというと、全くそうなってはいないのが残念な実情でしょう。
現在は急激な変化の過渡期です。業務フローの変化に伴う混乱、また標準化の過程で必要となる各種フォーマット統一化。これらが現場にさらなる手間を生んでいます。生みの苦しみと言えば聞こえはいいですが、組織の上位層がよく説明もしないで膨大な作業を下位層にやらせているので、モチベーションを無くしている若手が多いように見受けられます。
このあたり、日本の会社は本当に従業員に「説明」をしないな、と残念に思います。
上位層が自分の言葉で「どういった理想を追求しているのか。そのために必要な作業がある。みんなで取り組もう」と説明すれば伝わると思うのですが、いきなりよくわからない部門から「マニュアルが変わりました」のような機械的な通達を出すのみで、膨大な作業をやらせようとする。進んでいる方向は正しいと思うのに本当に残念なことです。
話はそれましたが、近未来、どのようなことが起こるか。
クライアントの会計システムと監査法人システムが連携し、自動的にデータが取り込まれ、ほとんどの調書は、アシスタントもしくは会計士がちょっとした選択をするだけでできてしまうのではないでしょうか(すでにSAPでは実現可能と聞いています)。もちろん即調書ができる、とはならないでしょうけど、これまでのように論点を検討し、ゼロから調書を作るのは難しい一部科目のみ、ということになると思います。
考えてみれば金融業界等、他の業界では会社間システムがオープンとなり、当たり前のようにデータ連携している時代です。いまだにCSVで会計データをやり取りしているなど遅れているとしか言いようがありません。
しかし、その自動連携に至るまでまだもう一苦労も二苦労もあるだろう、というのが私の印象です。
監査法人も思いのほか標準化が進んでおらず、まだまだ細部で改善が必要と思われます。
しかし将来的には間違いなくこのような流れになると思っています。
IT統制の評価はますます重要になりそうです。
すべての工程が標準化されると、パラメータを間違える等のミスが起きた瞬間に、その後に与えるインパクトは計り知れないからです。
またITが多用されると、ブラックボックスになりがちで、どこで何が起こるかわからない、リスク評価がしづらい、という側面もあります。
違う話としては、IFRSも徐々に、確実に広まっています。好むと好まざるとにかかわらず、IFRSは必須科目となりそうです(私は大手監査法人でIFRSジョブにほとんど関われなかったのが残念です。IFRS担当の同僚に話を聞き、日本基準とかなり異なるアプローチが必要と思いました)。
さらに他の投稿でも触れていますが、グループ監査の拡充に伴い、他国の監査人との連携がますます重視される結果、英語の必要性も前にもまして高まっています。
このような状況で、会計士もしくは会計士を目指す人は、どのような対応をすればいいでしょうか。
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