「調書箱運搬」のBittersweet Memories-中年の監査法人体験記6-

前の記事 中途採用者への「体育会的洗礼」!

監査デビュー戦、難易度の高いIPOジョブで、なんとか与えられたタスクはこなす。

当然のような長時間労働に耐えきれず、3日目にして強引に5時ダッシュ。

初現場でいきなり変な奴になってしまいましたが、まあそれには慣れているので大丈夫です笑。

そしてある違和感を感じ始めます。

このクライアント、はっきり言うと申し訳ないのですが「業績的によろしくない」会社でした。

実は私はこのタイプの会社、非常になじみがあります。

前々職で融資業務および中小企業経営コンサル、前職で税理士業をやっていたのもあり、決算書を見て、大体どのような問題を抱えているか予測できます。

そのようなバックグランドがあったからこそ、このIPOジョブにいきなりアサインされたのでしょう。

もちろん決算書だけではわからないこともあるので、実際に会社に行って確認する必要もあります。それで3~4日会社にいて、次の確信を得ました。

この会社IPOなんかできるわけないでしょ!!

本当に申し訳ないのですが融資等に来たとしてもアウトレベルでしたし、どちらかというと再生案件、というイメージでした。

で、不思議なのが、監査メンバーが5人くらいでこの会社を一生懸命監査していること。この会社IPO監査どころではないと思うのですが。

私はどういうことなのかわかりませんでした。何か決算書からは予想もできないウルトラCがあるのか。それとも事情があって監査をやらなければいけない理由があるのか。

確かに業績が悪くても、将来性と事業の革新性を評価されて、大赤字でも上場が認められるケースがあります。

しかしこの会社、とてもそうは見えなかった。

それである日私は監査現場で言いました。

この会社IPOなんてできるんですかね?絶対無理ですよね?

…シーンとしてしまいました。

そんなこと新人が言ってはいけない笑。

このときの主任のイラついた顔は忘れられません笑(のちに仲良くなるので勘弁してください)

しかし実はこれ、非常に大きな問題をはらんでいると思っています。

公認会計士って、会社の業績とか将来性とか、あまり判断しないのです。判断しないというか「判断できない」が近いかもしれない。

会計処理が会計基準に準拠しているかを調べ、監査基準に従って監査をすることはできる。

しかしクライアントの業績理解、現状の立ち位置、将来の展望、数字の解釈等、非常に弱いというのが私の印象です。特に業績が悪い会社に対する理解がない。あまり興味が無いのかもしれない。

この後も、他の会計士と会社のリスク評価等する際、クライアントの事業や業績について、どうも話がかみ合わないな、と思うことが多かった。ピント外れというか。要は事業経験が無い。

不遜かつ偉そうに聞こえるかもしれませんが、これが偽らざる印象です。

案の定、この会社は続行不可能ということで1年後に監査契約解除となります。

厳しい言い方をすれば、監査にかけた大量の時間が結果的に無駄になっていますので、この案件を進めた責任者は、本来厳しく責任を問われるべきなのでしょう。

しかし、そんなことは関係なく、スタッフとしては黙々と作業をやらざるを得ません。

東京CPA会計学院

さて、それはそれとして、私は初現場で「新人」として振舞う必要があります。先輩に気を利かせるということが必要になってくるわけですが、すごく苦手なんです笑。得意な人は本当に得意ですよね。

ランチの時伝票を持って真っ先にレジに行く

みんなのゴミを集める(ペットボトルとか)

率先して紙調書を整理する

こういうの本当にやりたくないのですが笑、まあやりました。

それで、一番辛かったのが、「監査箱」の運搬です。

当時は「紙調書」もまだたくさんある時代。紙調書というのは文字通り電子調書ではなく紙の調書。銀行から回収した残高確認状がいい例です。他にも会計監査六法、資料といった、膨大な紙ファイルを持ち運びする必要がありました。

これを手で運んでタクシーで運搬するのです(重要書類なので電車は使えない)。郵送でもいいのですが、それはそれで社内手続が非常に面倒。どちらかというと手による運搬が多かったです。

はっきりいってかなり重いです。

さらにこれを入れる「監査箱」が非常に開け閉めがしづらい。最初締め方を覚えるのに1時間くらいかかりました笑

大きなジョブだと、監査箱が2つ以上あったりします。

新人はこれを手で運搬しなければいけません。

これは精神的にも肉体的にもきつかった。もはや若くもないので腰が…。新人なのでやらなきゃいけないというのはわかる。けど一応中途なのにこの扱い…と腹立たしかったのが本音です笑。

皆さんは耐えますか?これくらい普通だと思いますか?

他の中途同期を見ると、特に文句も言わず同じことをやっていましたので、まあ仕方ないのでしょう笑。

ちなみにここ数年で大手監査法人は「紙調書禁止」になっていますので、あまりにも重い調書運搬は無くなっているはずです。2019年~2020年あたり、現場で監査箱が激減していました。

これ、新人女性にもやらせている現場を見ました。いくらなんでもそれはダメだ。

私はこの記憶が鮮烈に残っていましたので、今役員をしている中小監査法人ではまっ先に「紙調書運搬」を禁止にしました笑。

このような運搬等の新人業務、当時は本当に辛かったですが、同期とネタにもできますし、今振り返ると懐かしい思い出となっています。

東京CPA会計学院

次の記事 「初現場」無事終了!新人会計士へのアドバイス