会計士11年目の「悶々」の日々②

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会計士は「誰がやっても同じ結果になるべき業務」と「その人にしかできない付加価値が高い業務」の区別が必要という話ですが、まずは「誰がやっても同じ結果になるべき業務」とは何なのかを決める必要があります。

監査法人で思いつくのは次のような業務でしょう。

  • 監査報告書の校正(KAM部分は除きます。しかしこれ、KAMで今年からかなり大変なことになりそうですね…)
  • 監査概要書作成送付
  • 残高確認書の法人共通センターとの作成送付等やり取り
  • 開示チェック・突合等の共通センターとのやり取り
  • 特別な論点の無い現預金・借入金・資本金等の調書作成
  • 調書登録
  • 契約手続
  • その他社内手続(アサイン調整、審査フロー、社内コンサルの申請手続き等含む)

これらに共通するのは、重要ではあるものの、クライアントにとっての付加価値は著しく低い、という点です。

調書登録はもちろん重要ですが、それが完璧にできたからと言って顧客にとって監査法人の価値は高まりません。できて当然だからです。契約手続や社内手続など言うまでもないでしょう。

つまりこれらは誰がやっても同じ結果になるべきものなのです。極端な話アシスタントがやろうとパートナーがやろうと。

このような業務は、一刻も早く標準化して、その方法を社内の人が誰でもわかる場所にマニュアルとして整備しておくべきでしょう。

こう聞くと「何を当たり前のことを」と思うかもしれませんが、本当にこれが出来ていないのです。研修でもまったく触れられない。

監査法人は情報共有化の発想が非常に弱いと思っています。どうも根底に「社内手続きだろうが何だろうが我々は高度なことをやっている。だからこそ現場が苦労して色々調べて、やり抜くべし」という価値観があるような気がします。

また各個人の対応を見ても、このような業務を振られたとき、特に文句も言わず大量の時間をかけて黙々と調べています。そして人にやり方を聞かれても、あまり快くは教えてはいないような気がします笑。まあ気持ちはわかります。自分が苦労して調べたことをあっさり知らない人に教えるのは抵抗があるでしょう。

しかしその知識と経験、本当に価値があるのか、という話です。上記の通り、顧客にとってはほとんど付加価値がないものばかりです。

このような業務ばかりやっていて残業をして、時間が足りないのだとしたら、大変不幸なことだと思います。

まずはこのような「誰がやっても同じ結果になるべき業務」を洗い出すことが必要だと思っています。

今私は自分の事務所のほかに、中小法人という非常に身軽なところにも籍を置いていますので、大手監査法人でやれなかった「徹底的な標準化」を実験中です。これは後ほど進捗報告したいですが、現時点では極めて順調です。

さて、業務を標準化できたとして、本題ですが、空いた時間で公認会計士は何をすべきか。何をすれば、新しい価値を生み出せるでしょうか。

わかりません!!誰か教えてください!!

そんな簡単にわかるわけないですね笑。

しかし今、私はひとつの方向性に興味を持っています。

平たく言えば「Data-Driven」。データ志向です。

監査法人、会計事務所の強みは「顧客データを会計データという数字の形で大量に持っている」ことでしょう。ざっくりした数値ではなく、勘定科目の細部にわたって顧客データを持っています。しかも過去何年にもわたって。

これ、なかなか無いと思います。

さらに監査法人であれば、重要な科目に対する自分たちの詳細な検討結果と知見まで記載しています。監査調書ですね。

これって、とんでもなく貴重な情報です。

私は大手監査法人時代、あれだけの情報を持ちながら、いろいろなことに原始的なアプローチがとられていたことが非常に不満でした。例えばアサイン。あきらかに手間がかかると想定される会社に対して機械的に人数を割り当てたり、声が大きい主任のジョブにたくさんに人数を割り当てたり。データに基づくアプローチが全くなされていなかった。

監査報酬もそう。見積りを取る時、「この業種のこの科目は過去の経験からこれくらいかかるだろう」、というアプローチはされず、どんぶり勘定で提示していた。

「自分たちが持っているデータ」と、「自分たちが行っている業務の結果」の関係を、Data-Driven Approachで分析・予測できるかもしれません。

例えば、どのような会社は監査契約解除となりやすいのか。勘定科目の特性は。逆にどのような会社なら監査大成功と言えるのか。私はIPO監査をたくさんやっていましたので「業種・業績・財務指標」と「IPO成功/失敗」の相関も興味があります。

この辺に、中小監査法人の突破口があるような気がしています。

これを実現するためにはもちろんIT化・電子化が必要ですし、調書のフォーマット化も必要になるでしょう。今大手監査法人で進めている調書のフォーマット化も真の狙いはこの辺にあると思っています。

今はまだぼんやりしていますが、私はこの方向性について、3年以内にひとつの答えを出したいと思っています。

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