大手監査法人3~4年目。
将来の独立を見越し「IPO(株式新規公開)監査」に注力しはじめました。
自分で手を挙げて、IPOのジョブにどんどん入っていったのです。監査法人3~4年目にはIPOジョブの「インチャージ(監査主任)」も経験することができました。
ちなみに3~4年目でもインチャージをすること自体は決して珍しいことではありません。
しっかり監査を勉強(IPOジョブであればIPOも勉強)し、会社や上のパートナーとコミュニケーションをしっかり取れば、できる人も多いと思います。
(巨大上場企業であれば、さすがにマネージャークラス(だいたい7~8年目)くらいでないと厳しいとは思いますが…)
前回の記事でも書きましたが、IPOしたい会社というのは基本的に「中小企業」「ベンチャー企業」となります。
ベンチャー企業であれば創業して間もなく、会社組織もほとんどできていないケースも珍しくありません。
さらに、これは少しややこしいところですが、大企業とはまったく異なる会計処理をしている会社がほとんどです。
例えば日商簿記2級で「税効果会計」というのが出てきます。「将来減算一時差異」に税率をかけて「繰延税金資産」を計上するものですね。
しかしこの処理は、中小企業ではほぼ100%行われていません。する必要がないからです。
日商簿記2級以降で出てくる問題、また「会計基準」と呼ばれるもの多く(例えば固定資産の減損会計、退職給付会計、キャッシュ・フロー計算書等)は、上場していない会社(+会社法等の監査を受けていない会社)はまったく採用していない、と断言してもいいでしょう。
非上場の中小企業は、極めて簡便的な会計処理をしているのです。
なぜかというと、その必要がないから。法人税の「税務申告書」はどの会社も必ず提出する必要があるので、そのための決算書は作るのですが、そこで求められる会計処理は上場企業のように厳しくはないのです。
これが大きな違いを生んでいる理由です。そういう意味では、日商簿記2級以降でよくやるような仕訳は、上場企業向け、ということもできる。
さらに別の問題として、「JSOX(内部統制)の導入」ということも必要になります。これはまた後にふれたいと思います。
ふつうの中小企業に対して上場企業の会計処理とJSOXを導入してもらい、IPO監査をするわけですから、会計士には「コンサル能力」が問われます。
そしてこの仕事、私は本当に自分に合っていると感じました。やはり前々職で中小企業の実態を体で把握していた、ということが大きかったと思います。また前職で中小企業の税務を経験していたことも大いに役に立ちました。
さて監査法人でIPO業務に注力すると決めたわけですが、では関わったすべての会社が新規上場できたのか、というと全くそんなことはありませんでした。
途中で業績が悪化して上場計画を取りやめたりするケースがあります。上場直前まで言ったのに全然いい株価がつきそうもなかったのでやめた、なんてのもあります。これらは会社側の都合ですね。
さらに、どんなに会社が上場したくても、監査法人(+証券会社)が、契約を辞めてしまうパターンもあります。つまり監査を始めてみたはいいけど、上記のような会計処理やJSOXの導入がなかなか進まない。これは監査法人(+証券会社)側の都合ですね。
監査法人が「上場できそうもない会社」と監査契約すると、けっこう辛いものがあります笑。
なぜなら、「上場できないのに、やたら細かくて難しい会計基準を採用して、やたら細かい監査を受ける」ということが、何一ついいものを生まないからです笑。それはそうですよね。もちろん細かい会計処理やJSOXをやるにこしたことはないですが、何事もコストとベネフィットをしっかり考える必要があります。上場もしないのに上場で求められるそういった処理を、いつゴールが来るかもわからないままやり続けるのは、会社、監査法人の双方にとって負担となるだけだし、何のメリットもないですね。
それで、監査法人は、契約前に会社を目利きし、上場までいけるか、また会社はそういった細かい処理を導入できるか、しっかり調べないといけないわけです。
しかし現実は、「この会社難しいのでは…」と思えるところがかなりありました。そして会社・監査法人共に、本当に膨大な労力をかけていた。
またも不遜なことをいって大変申し訳ないですが笑、監査法人は「目利き」能力が非常に弱いのでは、と感じ始めました。
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