大手監査法人の「ブランド」力!-中年の監査法人体験記23-

IPOジョブは面白い!しかし…-中年の監査法人体験記22-

監査法人3~4年目。

このあたりから私の組織に対する態度は「無関心」となり、組織がどんな経営方針なのか、どんな方向を目指しているか、また社内の動向にも注意を払わなくなりました。

そして将来の独立を見据え、自分の興味ある分野だけに注力するようになります。

この仕事の仕方、賛否両論あると思います。どちらかというと「否」が多いかもしれない。

組織で働く以上理不尽なことが起こるのは当たり前。下のポジションは所詮歯車なのだから、言われた通りに働くべし。賞与が減額されたくらいでモチベーションが下がるなどナイーブすぎる。

確かに私も学校を卒業してすぐ監査法人に入ったのであれば、よくわからず、こういうもんかと思い、普通にこれまで通り働いたかもしれない。

しかしすでに外の世界でいろいろな経験をしている私にとって、監査法人という組織はなんだか「学生ノリ」に見えたのです。

やっていることは確かに小難しいけれども、じゃあほかの業界よりもやっていることが高度なのか、というと決してそんなことはない。

むしろ監査法人というのは、他の業界よりも標準化された、極めて予測のつきやすい業界だと思います。

何しろやることはほとんど毎年同じなのです。

であればしっかり社内で情報を共有する体制を構築する。

賞与のルールがあるなら周知する。

こういう当たり前のことをやらない、周知しないということが、何と言うか、普通の組織の感覚とかけ離れた学生ノリに見えた。正しい表現かどうかはわかりませんが。

個人的な考えですが、かつておそらく会計士はほぼひとりもしくは数人で、会計事務所として監査をしていたのが、企業が大規模化するにつれて監査法人も急速に大きくなり、合併に合併を重ね、現在の組織になったのだと思います。

ここまで組織が大きくなったのは、最近と言えば最近です。

で、かつては個人がほとんど独立して、専門家としての個人判断で監査をやっていたのが、近年、急に大規模チームで監査をやることになったのだと思います。その結果、会計士は個人で見ると今も変わらず独立した専門家でありながら、大規模チームの歯車として働く必要があるという、けっこう難しいポジションになってきたのだと思います。他の士業を見ても、これほど大きな組織やチームというのは珍しいのではないでしょうか。

私が感じる違和感もこの辺にあるのかもしれません。つまり、なんでこれほど大規模な組織で、標準化された業務ばかりやっているのに、社内業務が標準化されておらず、大事なことを誰も説明しないんだ、という疑問も、そういう事情が背景にあるのだと思います。

さて、このように個人的にはいろいろな不満がある大手監査法人でしたが、一方で、世間的なブランド価値がものすごく高い、ということもひしひしと感じていました。

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「ブランド」のなかで、いかに「イメージ」というぼんやりしたものが大事なのか、非常によくわかります。

監査法人の大手と中小の違いというのは、監査の手続に関して言うと、個人的にはほとんどないと思っています。

大手は確かに人手をかけられるので、細かいことをやってはいるのですが、かといって品質的にきっちりしているかというと、全くそんなことはありません。

重要な手続が普通に抜けていたりします。

またこれまで記載のとおり、社内業務に無駄が多く、最先端とは程遠い原始的な仕事をしていたりします。

あくまで個人的印象ですが笑、管理や組織が本当にいい加減で、過去所属した組織と比べても、組織力が弱く諸事いい加減とすら感じていました。

しかし世間の印象は全く異なるのです。

極端な話「大手監査法人」というだけで、契約が取れたりします。「大手監査法人」というだけで、ものすごくしっかりしているように思われるのです。

大手のブランド力というのは監査法人業界だけではなく他業界でも同じなのでしょうが、監査法人業界は大手が寡占状態にあることもあり、とにかく「大手信仰」が強いです。

中にいると、「本当にいい加減だな」とか「こんなので大丈夫だろうか」と思うことが多かったのですが、外に出ると「すごくしっかりしている」「すごくきっちりしている」というイメージを持たれることがあり、このギャップは非常に面白かったです。ブランドイメージというものを考えるきっかけになりました。

まあ、ひとつには大手監査法人は有名なグローバルネットワークに所属しているのが非常に大きいでしょう。あのグローバルの看板が外れると、一気にブランド価値は落ちるのかもしれません笑。実はそれくらい脆いものだと思っています。

ちなみに大手だから人が多く、余裕があり、その結果失敗が起こらないという想定もあるでしょうが、個人的にはそんなことはないと思います。むしろ大手のほうが大量の大規模クライアントを抱えており、人手がかけられていないように見えるときもあります。

そして、これもどの業界でも同じなのでしょうが、結局のところ大事なのは組織ではなく人なのです。大手に所属しているから真摯にきっちり対応するか、というと全くそんなことはありません。会社から見ると、大手・中小はあまり関係なく、担当者が優秀でコミュニケーション能力に長けた人材であれば、全く問題ないと思っています。

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